クール・ジャパンはなぜ嫌われるのか

http://www.amazon.co.jp/dp/4121504917/

三原龍太郎(著)

この本は、日本文化の海外展開戦略の本だ。日本文化は、極めてユニークでそのため、「クール・ジャパン」と呼ばれ、そのユニークさ故に、海外に対して独特の魅力を発信できると期待されている。

ここでいう日本文化は、一般に日本文化としてイメージされる「歌舞伎」「華道」ではなく、マンガ・アニメ・日本食のようなサブカルチャーや大衆文化を指している。

この本は、クールジャパンを支援する国家が当のサブカルチャーの人たちから反感を生んでいている現象について言及している。

章立ては以下のようになっている。

  1. クール・ジャパンの「憂鬱」
  2. クール・ジャパンはどう「嫌われる」か
  3. クール・ジャパンの「過去」と「現在」
  4. クール・ジャパンの「海外における実態」
  5. クール・ジャパンの「政策」
  6. クール・ジャパンの「未来」

全体の流れとしてクールジャパンの定義、実態調査から始まり、それに対する国の政策の紹介を行っている。著者の三原は元経済産業の官僚であったため、国の政策の意義を強調する傾向にあると感じた。クールジャパンに対するネットユーザーの反発を主題としているので、「クールジャパンに国は関わるな」というネットの雰囲気に対する反論を試みているので、具体的な政策の良し悪しにまで話が進んでいないように感じた。私はこの本を読んでもなお、国はコンテンツファンドに関わるべきではないと感じている。なぜなら、通常の出資と違って、損をしても誰も責任を追わないからだ。

雰囲気で批判されるのが嫌なら実例を上げて批判しよう。

三原は、ネットのクールジャパン政策に対する批判は実態を調べもせずに、批判していると嘆く。それだったら、国家がファンドを組織し実際にコンテンツ会社に出資した事例を元に考えてみよう。現在、三原の古巣の経済産業省は、クールジャパン支援のためにクールジャパンファンドを立ち上げ、300億円程度の出資を行おうとしている。まだ、出来立ての組織を「国が作ったから」という理由で批判は出来ない。それならば、国が作った似た仕組みをベースに上手く運用できるか考えるのが得策だ。

似た仕組みからクール・ジャパン支援が上手くできるか考える。

国は、産業革新機構という半官半民の組織を作った。現在2800億程度の出資をしている。その出資先の一つに、All Nippon Entertainment Works(ANEW)という企業がある。最大60億程度出資するそうだ。事業の内容は、「日本のコンテンツ(ストーリー/キャラクター等)をリメイクし、グローバル市場をターゲットとしたエンタテインメント作品を企画開発する」とある。しかし、彼らの会社のホームページを見ると、http://www.an-ew.com/ja/article/71/ 驚くほどになんの情報も無い。2012年に東映アニメが昔作ったガイキングをハリウッドで実写化しますというプレスリリースを打ったあと、特に活動に関するリリースは出していない。COOが就任したとかその程度。実際の活動実績を問い合わせた人がいたが、国はその活動を把握していないようだ。あのホームページをスカスカっぷりを見るに何もしてないのだろうなと推測するのが妥当だろう(ガイキング以外も海外に売り込んでいるなら、プレスリリースを打つはず)。何も公開することがないなら特に何もやっていないのだろう。実際に、この会社を調べている人もいるようで、以下の様な記事を見つけた。「官製株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの検証:官製ファンドを使ったクールジャパン映画グローバル戦略イノベーションにみる腐敗と天下り」http://getnews.jp/archives/434838

要は、半官のファンドから60億の資金を調達しながらそこには経済産業省の人間が関わっており、また資金の使い道の公開義務もないことから単に税金を無駄に使っているだけではないかという指摘だ。また、その著者は、劇場版ガイキングが完成する日は来るのかhttp://togetter.com/li/520785 というtogetterもまとめている。

誰も責任取らなくて良いなら、そこに待っているものはモラルハザードしか無い。

国がファンドをやる最大の問題点は、誰も責任を負わないことだ。民間のファンドであれば、ダメな会社に投資をすれば「損」をする。勢い事業の将来性や撤退判断は厳密に迅速に行われる。でも国が税金でやるならどうか?関係者は誰も損しない。損をするのは税金を払った国民だけだ。この状態はガバナンス上良くない。そこに待っているのはモラルハザードだけだ。ANEWで、どのような事業にどのようなお金が使われたか分からない(公開されないので)。けれども、何年後かあと、60億の出資金が全部溶けて亡くなったあと、実際に何に使われていたか、真摯に映画製作に使われていたか疑問の残る結果になるのではないかと思っている。

詐欺が見抜けないならファンドはやるな。

三原はクール・ジャパンはなぜ嫌われるのかでこう書いている。

クールジャパン政策に、ネット民が背を向けるなら、その税金はより合致度の低い、あるいは不適切な組織に行ってしまうだろう。

最悪の場合、口八丁手八丁で役人をだまし、補助金をゲットして、実際は何もしないような「公金ゴロ」のような人のところにリソースが行ってしまうかもしれない。自分たち(国の介入が嫌いなクリエイターのこと)が「食わず嫌い」をしたために、税金が浪費されてしまうという結果もありうる。p240

なかなかに素敵な理論だ。言うまでもなく、口八丁手八丁の「公金ゴロ」か「真摯なクリエイター」か見抜く責任は、出資者にある。民間のファンドで、良い会社が無いので回収の見込みの無い詐欺会社に投資しました・・・。って単純に倒産して終わりである。自分たちが「公金ドロ」を見抜く能力が無いことを、「クール・ジャパン」を食わず嫌いするクリエイターに押し付けるという理屈はどう考えても無茶である。

三原は、国は上から目線がクールジャパン政策が嫌われる原因であるといった、けれども、三原は国がクールジャパンファンドに関わっていけない理由として、誰も責任を取らない点を上げていない。本当の問題は、国によるクール・ジャパン政策が、税金をベースにするため、誰も責任を取らず、そのため、「公金ゴロ」や「身内」を呼び込んでしまうようなモラルハザードを起こしやすい点にあるのだ。

本当に国にしか出来ないこと

以上、国がクール・ジャパン政策を行うべきで無いという話をした。では、国は何もスべきでないのか?クールジャパンを放って於けば良いのか?私は国にしか出来ない事があると考える。民間には絶対に出来ないことだ。クールジャパンを語る際に、何故かこの視点はいつもすっぽり抜け落ちる。国にしか出来ないこと、民間では絶対に出来ないこと、それは何か?答えは・・・・。

暴力装置を動かす・・・・。

な、なんだってー。要は、国家はファンドとか目利きとか出来ないんだから、警察とか軍隊とか労働基準監督官(司法警察員)とか動かせば良いのだ。これだったら目利きである必要も無い。民間のほうが上手くやれることも無い。じゃあ、暴力装置を動かすってなんに対向するために動かすのか?対象は2つ、海外でのコピー商品対策と、国内でも労働対策である。海外のコピー対策は、私のオリジナルというわけではなく、やまもといちろうもかねてから指摘している。

コンテンツ業界話に関する補遺 http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/03/post-011e.html

 知的財産の外国市場での保護に関して

 マジコンに限らず、日本のコンテンツは諸外国で大量にコピーされ、流通しています。これら海賊への対策は、もっぱらプラットフォーム事業者(任天堂やソニーなど)による自助努力によって支えられてきました。

 具体的には、違法コピーで売上を立てている業者を各国で発見し、各国の法律に照らし合わせて訴訟を起こし、判例を積み重ね罰金を勝ち取ることで、業者が巨大化しないようサーチしながら権益を守るというものです。

国が得意なこと、国にしか出来ないことは将にこの分野ではないだろう。

知的財産保護専門の軍隊(急に話はトンデモへ)

国が得意で民間が苦手なことは、暴力装置の執行なのだから、国が真面目にクール・ジャパン政策を考えるなら、やることファンドじゃなくて、知財専門の軍隊の新設である(図書館戦争の図書館隊みたいでかっこいいでしょ)。言っていることは別にふざけてなくて、アメリカにも、麻薬取締局に、海外での麻薬取り締まりに従事する特殊部隊(DEA-FAST)を持っている。海外から麻薬という国民の生命財産を侵すものが入ってきているので、国民の生命財産を守るために、海外向けの強襲部隊を持つことは別に間違ったことではない。コピー商品があまりに氾濫し、外国の政府が取り締まりに熱心でないなら、強襲して工場ごと燃やしちゃう特殊部隊を作ってしまえば良いのである。

ケシ畑の中の、DEA-FASTチーム、ほとんど軍隊である。

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強襲用のヘリコプターも持っている。繰り返すが、麻薬取締官である・・。

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http://www.militaryphotos.net/forums/showthread.php?228091-DEA-FAST-Teams

労働基準監督官の権限強化

クールジャパンと言いながら、コンテンツ制作者の、扱いは悲惨である。

アニメ制作社員の自殺 クールジャパン支える「月600時間労働」の衝撃

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1404/28/news020.html

というニュースがあった。アニメ制作会社の社員が、長時間労働の末、うつ病を患い自殺した。月の労働時間は600時間だった。

あまり知られていないが、労働基準監督官には、逮捕権限がある。けれどもあまり活用されていない。年に数件程度である。

本当にクールジャパンのことを考えるなら、やることはファンドではなくて、こういった、暴力を伴った政策じゃないのかと思う。 何故ならば、「政府」は、未来を予測することは苦手だが、起こったことを調査するのは得意だからだ。海賊版がどのように流通するか調べるのはどの企業に投資すれば良いか判断するよりはるかに上手くできる。また、政府はどこコンテンツが流行るか予測できないが長時間労働を行う事業所を調査するのは得意だ(調査が得意でなければ、まともな警察能力は持てないし、治安の維持も出来ない)。

政府、民間の得意なことマトリックス。

実際、政府と民間が得意な事、不得意なことをマトリックスにしてみた。

得意不得意
民間生活に密着した分野の投資(数千万、数億)暴力を伴った行為
政府治安の維持、安全保障、生活インフラの整備・投資(数千億-)生活に密着した趣味コンテンツの予測

このマトリックスでいうと、経済産業省がクールジャパンで行おうとしているのは、自分たちが不得意としている、趣味に密着した数千万、数億、数十億の投資であることがわかる。

三原さんがアニメやコンテンツが好きなことはよく分かる。でも、好きであることと上手くやれることは違う。

文中、時々挿まる逸話から、三原さんが、アニメやコンテンツが好きなことはよく分かる。ボカロ関係のファンの集まりにもよく顔を出していて、彼がそれらのコンテンツを愛していることも分かっている。

でも、好きであることと上手くやれることは違う。国家が産業振興をしようとして大した成果も挙げられなかった例は多い。特に、ITやコンテンツのような大きな資本が必要なく、アイディアや才能のある若者が主役の産業では、あまりうまく行っていない。 同じ経済産業省が、IT産業の振興を目的に行った情報大航海プロジェクトも、あまり成果を公開出来ないまま、情報大航海プロジェクトのサイトも、失効してしまいその成果もよくわからないままだ。

情報大航海プロジェクトの成果に関しては以下のサイトが詳しい。

http://kur.jp/2011/09/01/igvpj/

エントリー中サービスをやっていたチームラボのサグールTVも結局サービスを閉じてしまった・・・・。

似た仕組みが失敗したが、今度はうまくいく根拠はどこにあるのだろう。

コンテンツも、消費者向けのIT産業も、事業を始めるのに巨大な資本がいるわけでも無く、優秀なクリエイターが集まることが成功の鍵である。そのため、コンテンツと、消費者向けのIT産業は、似た組織・産業構造を持つとかんがえられる。 クール・ジャパンはなぜ嫌われるのかでは、新書という制約もあり、経済産業省や他の機関が、どのような政策を打ち、その評価がどうだったかについての記述が少ないように感じた。 三原の著書では、産業革新機構におけるNIPPON ENTERTAINMENT WORKS(ANEW)や、情報大航海プロジェクトについての言及はあまりない(ANEWについてはすこしある)。 政策論で有意義な議論をしたいなら、似たジャンルでどこにお金を出しどのように使われその成果はどうだったかをまとめると良いのではないかと思う。

前回の政策ではここが上手く行き、ここが上手く行かなった。そのため、クールジャパン・ファンドではどのように改善した。という話があると、良いのではないか。 そうでないなら、前回と同様に芳しい成果を残せないのではないと思う。

三原さんにしてほしいこと。

上の項目に書いたように、実際の今走っている政策に関して、評価をしてほしい。特に、ANEWに関しては、細かい資金の流れや実際のガバナンスまで調べて公表してもらえるとありがたい(ヒロ・マスダさんも欲しがっているみたいだし)。 個人的には、政府がやる政策が信用されないのは、政策が実際に成果を上げたのか調査することなく、次々に同じような政策に税金を投入するからではないかと思っている(情報大航海プロジェクトの五年後の評価とか見てみたいです。現実に開発した技術は使われている?)。 三原さんが考える国が得意なこと、民間が得意なことのマトリックスを見てみたいと思った。

まとめ

三原さんの、「クール・ジャパンはなぜ嫌われるのか」を元に、クール・ジャパンに対する支援策について考えた。 過去に行われた同様の政策を元に本当にうまく出来るのか、疑問を書いた。政策評価をするなら、過去の似た政策を元に考えるのが効率的だ。 過去の政策を見る限り、お金を上げる政策は、そんなに成功例が無いように感じる。 単に成功例が無いだけでなく、その出資に責任を負う人がいないなら、そのファンドは単純にモラルハザードに陥るという話を書いた。 国には、得意なことと苦手なことがあり、クールジャパンの支援策は、その苦手なことをやっているのではないかと思っている。

国がやるなら、民間には出来ない、国が得意なことをやるべきで、そういう意味では国は暴力装置(警察とか軍隊ね)を動かす方向で、クールジャパンに対する支援策を考えたほうが良いではないかと思っている。


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Last-modified: 2015-02-01 (日) 14:38:23 (933d)